ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」の公式ブログです。

2018-08-13

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (13/31)

(645字。目安の読了時間:2分) といった様な形容の出来ない変てこな気持で、併し私は憑(つ)かれた様にその不可思議な世界に見入ってしまった。  娘は動いていた訳ではないが、その全身の感じが、肉眼で見た時とは、ガラリと変って、生気に満ち、青白い顔がやや桃色に上気し、胸は脈打ち(実際私は心臓の鼓動をさえ聞いた)肉体からは縮緬の衣裳を通して、むしむしと、若い女の生気が蒸発して居る様に思われた。  私...

2018-08-13

【ブンゴウメール】人間椅子 (12/31)

(578字。目安の読了時間:2分) 考えて見れば、墓場に相違ありません。 私は、椅子の中へ這入ると同時に、丁度、隠れ簑でも着た様に、この人間世界から、消滅して了う訳ですから。  間もなく、商会から使のものが、四脚の肘掛椅子を受取る為に、大きな荷車を持って、やって参りました。 私の内弟子が(私はその男と、たった二人暮しだったのです)何も知らないで、使のものと応待して居ります。 車に積み込む時、一人...

2018-08-12

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (12/31)

(655字。目安の読了時間:2分)  焦点が合って行くに従って、二つの円形の視野が、徐々に一つに重なり、ボンヤリとした虹の様なものが、段々ハッキリして来ると、びっくりする程大きな娘の胸から上が、それが全世界ででもある様に、私の眼界一杯に拡がった。  あんな風な物の現われ方を、私はあとにも先にも見たことがないので、読む人に分らせるのが難儀なのだが、それに近い感じを思い出して見ると、例えば、舟の上か...

2018-08-12

【ブンゴウメール】人間椅子 (11/31)

(545字。目安の読了時間:2分) 無論、そこには、巌丈な木の枠と、沢山なスプリングが取りつけてありますけれど、私はそれらに、適当な細工を施して、人間が掛ける部分に膝を入れ、凭れの中へ首と胴とを入れ、丁度椅子の形に坐れば、その中にしのんでいられる程の、余裕を作ったのでございます。  そうした細工は、お手のものですから、十分手際よく、便利に仕上げました。 例えば、呼吸をしたり外部の物音を聞く為に皮...

2018-08-11

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (11/31)

(774字。目安の読了時間:2分) 左様丁度その辺がようございましょう」  誠に異様な頼みではあったけれど、私は限りなき好奇心のとりことなって、老人の云うがままに、席を立って額から五六歩遠ざかった。 老人は私の見易い様に、両手で額を持って、電燈にかざしてくれた。 今から思うと、実に変てこな、気違いめいた光景であったに相違ないのである。  遠眼鏡と云うのは、恐らく二三十年も以前の舶来品であろうか、...

2018-08-11

【ブンゴウメール】人間椅子 (10/31)

(641字。目安の読了時間:2分) それは、夢の様に荒唐無稽で、非常に不気味な事柄でした。 でも、その不気味さが、いいしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます。  最初は、ただただ、私の丹誠を籠めた美しい椅子を、手離し度くない、出来ることなら、その椅子と一緒に、どこまでもついて行きたい、そんな単純な願いでした。 それが、うつらうつらと妄想の翼を拡げて居ります内に、いつの間にやら、その日頃...

2018-08-10

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (10/31)

(681字。目安の読了時間:2分)  額全体が余程古いものらしく、背景の泥絵具は所々はげ落ていたし、娘の緋鹿の子も、老人の天鵞絨も、見る影もなく色あせていたけれど、はげ落ち色あせたなりに、名状し難き毒々しさを保ち、ギラギラと、見る者の眼底に焼つく様な生気を持っていたことも、不思議と云えば不思議であった。 だが、私の「奇妙」という意味はそれでもない。  それは、若し強て云うならば、押絵の人物が二つ...

2018-08-10

【ブンゴウメール】人間椅子 (9/31)

(562字。目安の読了時間:2分) 私は例によって、四脚一組になっているその椅子の一つを、日当りのよい板の間へ持出して、ゆったりと腰を下しました。 何という坐り心地のよさでしょう。 フックラと、硬すぎず軟かすぎぬクッションのねばり工合、態と染色を嫌って灰色の生地のまま張りつけた、鞣革の肌触り、適度の傾斜を保って、そっと背中を支えて呉れる、豊満な凭(もた)れ、デリケートな曲線を描いて、オンモリとふ...

2018-08-09

【ブンゴウメール】人間椅子 (8/31)

(597字。目安の読了時間:2分) 「こんな、うじ虫の様な生活を、続けて行く位なら、いっそのこと、死んで了った方が増しだ」私は、真面目に、そんなことを思います。 仕事場で、コツコツと鑿(のみ)を使いながら、釘を打ちながら、或は、刺戟の強い塗料をこね廻しながら、その同じことを、執拗に考え続けるのでございます。 「だが、待てよ、死んで了う位なら、それ程の決心が出来るなら、もっと外に、方法がないもので...

2018-08-09

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (9/31)

(665字。目安の読了時間:2分)  洋服の老人と色娘の対照と、甚だ異様であったことは云うまでもないが、だが私が「奇妙」に感じたというのはそのことではない。  背景の粗雑に引かえて、押絵の細工の精巧なことは驚くばかりであった。 顔の部分は、白絹は凹凸を作って、細い皺まで一つ一つ現わしてあったし、娘の髪は、本当の毛髪を一本一本植えつけて、人間の髪を結う様に結ってあり、老人の頭は、これも多分本物の白...

公式サイト

ブンゴウメール

ブンゴウメール

1日3分のメールでムリせず毎月1冊本が読める、忙しいあなたのための読書サポートサービス

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチは、青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービスです。