ブンゴウメール公式ブログ

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2018-08-19

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (19/31)

(673字。目安の読了時間:2分) まさか兄がこんな所へ、毎日毎日通っていようとは、夢にも存じませんので、私はあきれてしまいましたよ。 子供心にね、私はその時まだ二十にもなってませんでしたので、兄はこの十二階の化物に魅入られたんじゃないかなんて、変なことを考えたものですよ。  私は十二階へは、父親につれられて、一度昇った切りで、その後行ったことがありませんので、何だか気味が悪い様に思いましたが、...

2018-08-18

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (18/31)

(612字。目安の読了時間:2分) 兄はその日も、丁度今日の様などんよりとした、いやな日でござんしたが、おひる過から、その頃兄の工風で仕立てさせた、当時としては飛び切りハイカラな、黒天鵞絨の洋服を着ましてね、この遠眼鏡を肩から下げ、ヒョロヒョロと、日本橋通りの、馬車鉄道の方へ歩いて行くのです。 私は兄に気どられぬ様に、ついて行った訳ですよ。 よござんすか。 しますとね、兄は上野行きの馬車鉄道を待...

2018-08-18

【ブンゴウメール】人間椅子 (17/31)

(578字。目安の読了時間:2分) その外、背骨の曲り方、肩胛骨の開き工合、腕の長さ、太腿の太さ、或は尾骨の長短など、それらの凡ての点を綜合して見ますと、どんな似寄った背恰好の人でも、どこか違った所があります。 人間というものは、容貌や指紋の外に、こうしたからだ全体の感触によっても、完全に識別することが出来るに相違ありません。  異性についても、同じことが申されます。 普通の場合は、主として容貌...

2018-08-17

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (17/31)

(790字。目安の読了時間:2分) 高さが四十六間と申しますから、半丁の余で、八角型の頂上が、唐人の帽子みたいに、とんがっていて、ちょっと高台へ昇りさえすれば、東京中どこからでも、その赤いお化が見られたものです。  今も申す通り、明治二十八年の春、兄がこの遠眼鏡を手に入れて間もない頃でした。 兄の身に妙なことが起って参りました。 親爺なんぞ、兄め気でも違うのじゃないかって、ひどく心配して居りまし...

2018-08-17

【ブンゴウメール】人間椅子 (16/31)

(616字。目安の読了時間:2分) 私はもう、余りの恐ろしさに、椅子の中の暗闇で、堅く堅く身を縮めて、わきの下からは、冷い汗をタラタラ流しながら、思考力もなにも失って了って、ただもう、ボンヤリしていたことでございます。  その男を手始めに、その日一日、私の膝の上には、色々な人が入り替り立替り、腰を下しました。 そして、誰も、私がそこにいることを――彼等が柔いクッションだと信じ切っているものが、実...

2018-08-16

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (16/31)

(678字。目安の読了時間:2分) 当時にしちゃあ、随分高いお金を払ったと申して居りましたっけ」  老人は「兄が」と云うたびに、まるでそこにその人が坐ってでもいる様に、押絵の老人の方に目をやったり、指さしたりした。 老人は彼の記憶にある本当の兄と、その押絵の白髪の老人とを、混同して、押絵が生きて彼の話を聞いてでもいる様な、すぐ側に第三者を意識した様な話し方をした。 だが、不思議なことに、私はそれ...

2018-08-16

【ブンゴウメール】人間椅子 (15/31)

(587字。目安の読了時間:2分) 私は、非常に長い間(ただそんなに感じたのかも知れませんが)少しの物音も聞き洩(もら)すまいと、全神経を耳に集めて、じっとあたりの様子を伺って居りました。  そうして、暫くしますと、多分廊下の方からでしょう、コツコツと重苦しい跫音が響いて来ました。 それが、二三間向うまで近付くと、部屋に敷かれた絨氈の為に、殆(ほとん)ど聞きとれぬ程の低い音に代りましたが、間もな...

2018-08-15

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (15/31)

(675字。目安の読了時間:2分) 「殊に、一方の、白髪の老人の身の上話をでございますよ」 「若い時分からのですか」  私も、その晩は、何故か妙に調子はずれな物の云い方をした。 「ハイ、あれが二十五歳の時のお話でございますよ」 「是非うかがいたいものですね」  私は、普通の生きた人間の身の上話をでも催促する様に、ごく何でもないことの様に、老人をうながしたのである。 すると、老人は顔の皺を、さも嬉...

2018-08-14

【ブンゴウメール】人間椅子 (13/31)

(598字。目安の読了時間:2分)  もうとっくに、御気づきでございましょうが、私の、この奇妙な行いの第一の目的は、人のいない時を見すまして、椅子の中から抜け出し、ホテルの中をうろつき廻って、盗みを働くことでありました。 椅子の中に人間が隠れていようなどと、そんな馬鹿馬鹿しいことを、誰が想像致しましょう。 私は、影の様に、自由自在に、部屋から部屋を、荒し廻ることが出来ます。 そして、人々が、騒ぎ...

2018-08-14

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (14/31)

(670字。目安の読了時間:2分) すると、それはやっぱり淋しい夜の汽車の中であって、押絵の額も、それをささげた老人の姿も、元のままで、窓の外は真暗だし、単調な車輪の響も、変りなく聞えていた。 悪夢から醒めた気持であった。 「あなた様は、不思議相な顔をしておいでなさいますね」  老人は額を、元の窓の所へ立てかけて、席につくと、私にもその向う側へ坐る様に、手真似をしながら、私の顔を見つめて、こんな...

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