(520字。目安の読了時間:2分) そして、それほどしょっちゅうあるわけではないが、運のいい場合には、父親が子供づれでやってきて、指で断食芸人をさし示し、これがどういうものなのかをくわしく説明し、昔のことを語り聞かせ、この断食芸人はこれと似てはいるが比較にならぬほど大じかけな実演に出ていたのだ、というのだった。 すると子供たちは、学校と日常生活とから得ている予備知識が十分でないため、いつでもなん...
(483字。目安の読了時間:1分) というのは、人びとが彼のところへやってくると、彼はたちまち、たえず変っていく二種類の人びとの叫び声やののしりの言葉のすさまじいさわぎに取り巻かれるのだった。 一方の人びとは――この連中のほうがやがて断食芸人にはいっそう耐えがたくなったのだが――彼をゆっくり見ようとする人たちだった。 だが、それもよくわかってのことではなく、気まぐれとつむじ曲りとからだ。 もう一...
(523字。目安の読了時間:2分) 狭い通路にあとからあとからつめかける人びとが、いこうと思っている動物小屋への途中でなぜこうやって立ちどまるのかわからないまま、落ちついてもっと長くながめることを不可能にするのでなかったならば、おそらく人びとは断食芸人のところでもっと長くとまっていたことだろう。 このことがまた、彼が自分の人生目的としてむろんくることを願っている見物時間のことを考えると、どうして...
(503字。目安の読了時間:2分) とはいえ、この主張は、断食芸人が熱中のあまり容易に忘れてしまっていた時代の風潮というものを考えあわせてみるならば、サーカスの専門家たちのあいだではただ薄笑いを招くだけではあった。 だが、根本においては断食芸人はほんとうの事情を見抜く眼を失ってしまったわけではなく、檻つきの彼を主要番組としてサーカスの舞台のまんなかには置かずに、外の動物小屋に近い、ともかく人の...
(399字。目安の読了時間:1分) むろん、それ相応にひかえ目な注文しかつけはしない。 それに、この特殊な場合にあっては、雇われたのは断食芸人その人ばかりではなく、彼の古くからの有名な名前もそうなのであり、実際、年をとっていくのに衰えないこの芸の特性を思うと、もはや技能の全盛期にはいない老朽の芸人が落ちついたサーカスの地位に逃げこもうとしているのだ、などとはけっしていえなかった。 それどころか、...
(408字。目安の読了時間:1分) いつかは断食の全盛時代がふたたびくるだろう、ということは確実だったが、今生きている人びとにとってはそんなことはなんのなぐさめにもならなかった。 そこで、断食芸人は何をやったらいいのだろうか。 何千という観客の歓声に取り巻かれていた者が、けちな歳の市にかかる見世物小屋へ現われるわけにはいかない。 ほかの職業につくためには、断食芸人は年をとりすぎていただけでなく、...
(420字。目安の読了時間:1分) いずれにしろ、ある日のこと、ちやほやされていた断食芸人は自分が楽しみを求める群集から見捨てられたのを知った。 群集は断食芸人よりもほかの見世物のほうへ流れていくのだった。 興行主はもう一度彼をつれてヨーロッパ半分を巡業して廻り、まだあちらこちらで昔のような関心がよみがえっているのではないか、と見ようとした。 すべてむなしかった。 こっそり申し合わせたようにどこ...
(481字。目安の読了時間:1分) 真実をこうしてねじまげる興行主のやりかたは、断食芸人がよく知っているものだったが、いつでもあらためて彼の元気をそぎ、あんまり度がすぎるものと思われた。 断食をあまりに早くうち切ることの結果なのが、今ここでは原因として述べられているわけだ! この愚劣さ、こうした愚劣さの世界と闘うことは、不可能だった。 彼はまだ何度でも格子のそばで興行主の話をむさぼるように聞いて...
(459字。目安の読了時間:1分) 彼は集った観客の前で断食芸人のこうしたふるまいのわびをいって、満腹している人びとにはすぐにはわからないが、ただ断食によって生じる怒りっぽさというものだけによって断食芸人のこんなふるまいが無理からぬものと思っていただけるはずだ、などとみとめるのだ。 つぎにそれと関連して、断食芸人が今断食しているよりももっとずっと長く断食できると主張していることも、それと同じよう...
(470字。目安の読了時間:1分) 外見上ははなばなしく、世間からもてはやされながら、そうやって生きてきた。 だが、それにもかかわらずたいていはうち沈んだ気分のうちにいた。 そうした気分は、だれ一人としてそれをまじめに受け取ることを知らないために、いよいようち沈んでいった。 どうやって彼をなぐさめたらよいのだろうか。 彼にはどんな不満が残っていたのだろうか。 そして、ときに彼をあわれんで、君の悲...