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それは、私も松村と同様に、頭のよさについて、私の優越を示す様な材料が掴(つか)み度いと、日頃から熱望していたからであった。 あのぎこちない暗号文は、勿論私の作ったものであった。 併し、私は松村の様に外国の暗号史に通じていた訳ではない。 ただ一寸した思いつきに過ぎなかったのだ。 煙草屋の娘が差入屋へ嫁いでいるという様なことも、矢張り出鱈目であった。 第一、その煙草屋に娘があるかどうかさえ怪しかった。 ただ、このお芝居で、私の最も危んだのは、これらのドラマチックな方面ではなくて、最も現実的な併し全体から見ては極めて些細な、少し滑稽味を帯びた、一つの点であった。 それは、私が見た所のあの玩具の札が、松村が受取りに行くまで、配達されないで、印刷屋に残っているかどうかということであった。 玩具の代金については、私は少しも心配しなかった。 私の親戚と大黒屋とは延取引であったし、其上もっといい事は、正直堂が極めて原始的な、ルーズな商売のやり方をして居ったことで、松村は別段、大黒屋の主人の受取証を持参しないでも失敗する筈はなかったからである。 最後に、彼のトリックの出発点となった二銭銅貨については、私は茲に詳しい説明を避けねばならぬことを遺憾に思う。 若し、私がへまなことを書いては、後日、あの品を私に呉れたある人が、飛んだ迷惑を蒙(こうむ)るかも知れないからである。 読者は、私が偶然それを所持していたと思って下さればよいのである。
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