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ある日のこと、いい心持に※(ゆだ)って、銭湯から帰って来た私が、傷だらけの、毀れかかった一閑張の机の前に、ドッカと坐った時、一人残っていた松村武が、妙な、一種の興奮した様な顔付を以て、私にこんなことを聞いたのである。 「君、この、僕の机の上に二銭銅貨をのせて置いたのは君だろう。あれは、どこから持って来たのだ」 「アア、俺だよ。さっき煙草を買ったおつりさ」 「どこの煙草屋だ」 「飯屋の隣の、あの婆さんのいる不景気なうちさ」 「フーム、そうか」 と、どういう訳か、松村はひどく考え込んだのである。 そして、尚も執拗にその二銭銅貨について尋ねるのであった。 「君、その時、君が煙草を買った時だ、誰か外にお客はいなかったかい」 「確か、いなかった様だ。そうだ。いる筈がない。その時あの婆さんは居眠りをしていたんだ」 この答を聞いて、松村は何か安心した様子であった。 「だが、あの煙草屋には、あの婆さんの外に、どんな連中がいるんだろう。君は知らないかい」 「俺は、あの婆さんとは仲よしなんだ。あの不景気な仏頂面が、俺のアブノーマルな嗜好に適したという訳でね。だから、俺は相当あの煙草屋については詳しいんだ。あそこには婆さんの外に、婆さんよりはもっと不景気な爺(じい)さんがいる切りだ。併し君はそんなことを聞いてどうしようというのだ。どうかしたんじゃないかい」 「マアいい。一寸訳があるんだ。ところで君が詳しいというのなら、も少しあの煙草屋のことを話さないか」
「ウン、話してもいい。
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