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ところが愈々最終という日になって、今もお話した様に、偶然にも、飯田橋附近の一軒の旅館の前で、同じ吸殻を発見して、実は、あてずっぽうに、その旅館に探りを入れて見たのであるが、それがなんと僥倖(ぎょうこう)にも、犯人逮捕の端緒となったのである。 そこで、色々、苦心の末、例えば、その旅館に投宿して居った、その煙草の持主が、工場の支配人から聞いた人相とはまるで違っていたり、なにかして、大分苦心したのであるが、結局、その男の部屋の火鉢の底から、犯行に用いたモーニング其他の服装だとか、鼈甲縁の眼鏡だとか、つけ髭だとかを発見して、逃れぬ証拠によって、所謂紳士泥坊を逮捕することが出来たのである。 で、その泥坊が取調べを受けて白状した所によると、犯行の当日――勿論、その日は職工の給料日と知って訪問したのだが――支配人の留守の間に、隣の計算室に這入って例の金を取ると、折鞄の中にただそれ丈けを入れて居った所の、レーンコートとハンチングを取出して、その代りに、鞄の中へは、盗んだ紙幣の一部分を入れて、眼鏡をはずし、口髭をとり、レーンコートでモーニング姿を包み、中折の代りにハンチングを冠って、来た時とは別の出口から、何食わぬ顔をして逃げ出したのであった。 あの小額の紙幣で五万円という金額を、どうして、誰にも疑われぬ様に、持出すことが出来たかという訊問に対して、紳士泥坊が、ニヤリと得意らしい笑いを浮べて答えたことには、 「私共は、からだ中が袋で出来上っています。その証拠には、押収されたモーニングを調べて御覧なさい。一寸見ると普通のモーニングだが、実は手品使いの服の様に、附けられる丈けの隠し袋が附いているんです。
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