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のみならず、新聞記者を相手に、法螺を吹いたり、自分の話が何々氏談などとして、新聞に載せられたりすることは、大人気ないとは思いながら、誰しも悪い気持はしないものである。 社会部記者と称する男は、寧ろ快く支配人の部屋へ請じられた。 大きな鼈甲縁の眼鏡をかけ、美しい口髭をはやし、気の利いた黒のモーニングに、流行の折鞄という扮装のその男は、如何にも物慣れた調子で、支配人の前の椅子に腰を下した。 そしてシガレット・ケースから、高価な埃及の紙巻煙草を取出して、卓上の灰皿に添えられた燐寸を手際よく擦ると、青味がかった煙を、支配人の鼻先へフッと吹出した。 「貴下の職工待遇問題に関する御意見を」 とか、何とか、新聞記者特有の、相手を呑んでかかった様な、それでいて、どこか無邪気な、人懐っこい調子で、その男はこう切出した。 そこで支配人は、労働問題について、多分は労資協調、温情主義という様なことを、大いに論じた訳であるが、それはこの話に関係がないから略するとして、約三十分ばかり支配人の室に居った所の、その新聞記者が、支配人が一席弁じ終ったところで「一寸失敬」といって便所に立った間に、姿を消して了ったのである。 支配人は、無作法な奴だ位で、別に気にもとめないで、丁度昼食の時間だったので、食堂へと出掛けて行ったが、暫くすると近所の洋食屋から取ったビフテキか何かを頬張っていた所の支配人の前へ、会計主任の男が、顔色を変えて、飛んで来て、報告することには、
「賃銀支払の金がなくなりました。
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