(489字。目安の読了時間:1分)
「そう思うのが当然ね」と言って花江さんは、うつむき、はだかの脚に砂を掬(すく)って振りかけながら、「あれはね、あたしのお金じゃないのよ。あたしのお金だったら、貯金なんかしやしないわ。いちいち貯金なんて、めんどうくさい」 成る程と思い、私は黙ってうなずきました。 「そうでしょう? あの通帳はね、おかみさんのものなのよ。でも、それは絶対に秘密よ。あなた、誰にも言っちゃだめよ。おかみさんが、なぜそんな事をするのか、あたしには、ぼんやりわかっているんだけど、でも、それはとても複雑している事なんですから、言いたくないわ。つらいのよ、あたしは。信じて下さる?」 すこし笑って花江さんの眼が妙に光って来たと思ったら、それは涙でした。 私は花江さんにキスしてやりたくて、仕様がありませんでした。 花江さんとなら、どんな苦労をしてもいいと思いました。 「この辺のひとたちは、みんな駄目ねえ。あたし、あなたに、誤解されてやしないかと思って、あなたに一こと言いたくって、それできょうね、思い切って」 その時、実際ちかくの小屋から、トカトントンという釘打つ音が聞えたのです。
========================= ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://bit.ly/3xvdTeB
■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2285_15077.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail ■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe
配信元: ブンゴウメール編集部 NOT SO BAD, LLC. Web: https://bungomail.com 配信停止:[unsubscribe]