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あの、れいの鏡花の小説に出て来る有名な、せりふ、「死んでも、ひとのおもちゃになるな!」と、キザもキザ、それに私のような野暮な田舎者には、とても言い出し得ない台詞ですが、でも私は大まじめに、その一言を言ってやりたくて仕方が無かったんです。 死んでも、ひとのおもちゃになるな、物質がなんだ、金銭がなんだ、と。 思えば思われるという事は、やっぱり有るものでしょうか。 あれは五月の、なかば過ぎの頃でした。 花江さんは、れいの如く、澄まして局の窓口の向う側にあらわれ、どうぞと言ってお金と通帳を私に差出します。 私は溜息をついてそれを受取り、悲しい気持で汚い紙幣を一枚二枚とかぞえます。 そうして通帳に金額を記入して、黙って花江さんに返してやります。 「五時頃、おひまですか?」 私は、自分の耳を疑いました。 春の風にたぶらかされているのではないかと思いました。 それほど低く素早い言葉でした。 「おひまでしたら、橋にいらして」 そう言って、かすかに笑い、すぐにまた澄まして花江さんは立ち去りました。
私は時計を見ました。
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