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でも私は、その女のひとを好きで好きで仕方が無いんです。 そのひとは、この海岸の部落にたった一軒しかない小さい旅館の、女中さんなのです。 まだ、はたち前のようです。 伯父の局長は酒飲みですから、何か部落の宴会が、その旅館の奥座敷でひらかれたりするたびごとに、きっと欠かさず出かけますので、伯父とその女中さんとはお互い心易い様子で、女中さんが貯金だの保険だのの用事で郵便局の窓口の向う側にあらわれると、伯父はかならず、可笑しくもない陳腐な冗談を言ってその女中さんをからかうのです。 「このごろはお前も景気がいいと見えて、なかなか貯金にも精が出るのう。感心かんしん。いい旦那でも、ついたかな?」 「つまらない」 と言います。 そうして、じっさい、つまらなそうな顔をして言います。 ヴァン・ダイクの画の、女の顔でなく、貴公子の顔に似た顔をしています。 時田花江という名前です。 貯金帳にそう書いてあるんです。 以前は、宮城県にいたようで、貯金帳の住所欄には、以前のその宮城県の住所も書かれていて、そうして赤線で消されて、その傍にここの新しい住所が書き込まれています。
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