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そしてもしも――これは腹蔵なき謙虚な問であります――貴兄においても、敬愛するホフマン兄よ、また同じ御事情であるならば、然らば小生等両親は、今後わが子の幸福の邪魔はすまいと思っていることを、小生はここに貴兄にむかって言明いたします。 お返事をお待ちしています。 どんな意味のお返事であろうと、小生は大いに感謝するでしょう。 そしてこの手紙には、衷心からの尊敬の言葉をつけ加えるだけで足りると思います。 敬具。 男爵オスカアル・フォン・シュタイン』 ――僕は眼をあげた。 彼は両手を背に廻したなり、また窓のほうに向いていた。 僕はただこれだけ問うた。 ――「立つんだね。」 すると僕のほうは見ないで、彼は答えた。 「あしたの朝までに、荷物をまとめなくちゃならないんだ。」 その日は、いろんな用達しや荷造りで暮れた。 僕も手伝った。 そして晩方僕の発議で、僕等は一緒にお名残の散歩をして、市街を廻った。 その時も、まだほとんど耐えきれぬ蒸暑さで、空には、一秒ごとにぱっぱっと燐光がきらめいた。 ――パオロは静かなものうげな様子だった。 しかし息づかいは深く重かった。 無言のままか、またはとりとめもない話をかわしながら、一時間ばかりもぶらぶら歩いた後、僕等はフォンタナ・トレヴィの前に足をとめた。 疾走する海神の車駕を表わしている、あの有名な噴水である。 僕等は今日もまた長い間、感歎しながら、この美しくも雄渾な群像を眺めつくしていた。
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