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――なにかに支えられているんだね。はっと起き直って、なにかを考える。ある文句にかじりついて、それを二十ぺんも繰り返す。そのあいだ僕の眼は、廻りにあるいっさいの光と命とを、むさぼるように吸い込む……僕のいうことがわかるかい。」 彼は凝然と横たわっていて、ほとんど、返事なぞを予期してはいないらしい。 その時なんと答えたか、僕はもう忘れてしまった。 しかし彼の言葉が僕に与えた印象は、決して忘れることはあるまい。 それから今度は、あの日である――おお、僕にはその日の経験が、まるで昨日あったことのように思われる。 それはあの灰色の、気味悪く暖かい初秋の一日であった。 アフリカから来るしめっぽい、胸を押しつけるような風が、往来を吹き抜けて、宵になると、空いっぱいに絶えず稲妻がきらめく、あの初秋である。 その朝、僕は散歩に誘うつもりで、パオロのところに行った。 すると、彼の大鞄が部屋の真中に出ていて、戸棚も箪笥も、思い切り開け放してあった。 ただ東洋で描いた水彩のスケッチと、バティカンにあるユウノオの首の石膏の模像だけが、まだもとのところに置いてあった。 彼自身はまっすぐに身を伸ばして、窓際に立っていたが、僕が驚きの叫びとともに立ちどまった時にも、じっと外を眺めていて動かなかった。 やがて、くるりと振り返ると、僕に一通の手紙を差し出して、ただ一言いった。
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