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僕等は美しい晩夏の朝に乗じて、アッピア街道に散策を試み、この古代的な往還を、ずっと郊外までたどって行った後、糸杉の樹立にかこまれた、小さな丘の上で休んだ。 丘からはあの大溝渠のある、明るいカムパニアと、柔かいもやに包まれたアルバノの山々とが、実に美しく見渡された。 パオロは半分横になって、あごを手で支えたなり、僕と並んで暖かい草生にいこいながら、ものうげな曇った眼で、遠くを眺めていた。 するとまたまた、完全な無感覚から例の通り急に振い起つようにして、彼はこう僕に話しかけた。 「この外気の情調さ。外気の情調というものがすべてなんだよ。」 僕はなにか決定的なことを答えた。 それなりまた二人とも黙った。 すると突然、まったくやぶから棒に、彼はこういった。 やや押し迫るように、僕のほうへ顔を向けながら、いったのである。 「ねえ君、ほんとは妙に思いやしなかったのかい、僕がまだ相変らず生きているのを。」 僕ははっと思って、黙っていた。 彼はまた考え込むような顔つきで、遠くのほうを眺めた。 「僕は――妙に思うね。」と彼はおもむろにつづけた。 「実をいうと、毎日それがふしぎでならないんだ。 いったい君は僕のからだがどんな風なんだか、知っているのかい。 ――アルジイルにいたフランス人の医者がね、僕にこういったっけ。 『どうしてあなたが、そういつまでも旅行して廻れるんだか、さっぱりわかりませんな。
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