(578字。目安の読了時間:2分)
――あしたの午前中は、ガレリア・ドリアにいるよ。サラチェニの模写をやっているんだがね、あの楽を奏でている天使に、僕はほれちゃったのさ。ぜひやって来てくれないか。君がこの土地へ来たのは実に嬉しいよ。お休み。」 それなり彼は出ていった――ゆっくりと落ちついて、力の抜けただるそうな歩きかたで。 次の月じゅう、僕は彼と一緒に市中を廻って歩いた。 あふれるばかりゆたかな、いっさいの芸術の博物館であり、南国の近代的大都市であるロオマを、さわがしい、めまぐるしい、熱い、さかしい生活にみちていながら、それでもあたたかい風が、東洋の蒸暑いけだるさを送ってくるこの都会を、廻って歩いたのである。 パオロの挙止はいつも同じだった。 たいていはむっつりしているが、時には力の抜けた倦怠に沈んでしまうかと思うと、やがて眼をきらめかせながら、急にきりっと坐り直して、とどこおっていた会話を、熱心にまたつづけるようなこともあった。 僕は彼が数言を洩らしたある一日のことを、ここに述べなくてはならない。 その言葉は今ようやく、僕にとってほんとうの意味を備えてきたのである。 ある日曜日のことだった。 僕等は美しい晩夏の朝に乗じて、アッピア街道に散策を試み、この古代的な往還を、ずっと郊外までたどって行った後、糸杉の樹立にかこまれた、小さな丘の上で休んだ。
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