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僕が黙っているので、彼はこうつけ加えた。 「五年以来だからな――とてもやりきれやしないよ。」 僕等は今まで両方で避けていた点に到達したのである。 その時はじまった沈黙で、二人とも困りきっているのがよくわかった。 ――彼はビロオドのクッションに背をもたせたまま、大きな燈架を見上げていた。 やがて不意にいった。 「それよりも――ねえ君、許してくれるだろうね、僕がこんなに長い間、なんにもたよりをしなかったのを……それはわかってくれるね。」 「わかっているとも。」 「僕のミュンヘンの事件は知っているんだろう。」と、彼はじゃけんなくらいの口調でさらにつづけた。 「この上なく完全に知っている。それにね、僕は今までずっと、君への伝言を持ち廻っていたんだぜ。ある婦人からの伝言をね。」 彼のものうげな眼が、ぱっと燃え上った。 が、しばらくすると、前と同じうるおいのない鋭い調子で、彼はいった。 「新しいことかどうか、まあ聞かせて見たまえ。」 「新しいとはいえないな。君が前に、その人から直接聞いたことのたしかめにすぎないんだ……」 そういって僕は、大勢の客がしゃべったり、手まねをしたりしているただなかで、あの夕方男爵令嬢が僕に語った言葉を、彼のために繰り返した。
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