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そして彼は、僕と並んで一杯のソルベットオをすすりながら、この年月どう暮していたかを、物語りはじめた。 ――旅をして、たえず旅をして暮していたのだという。 チロオルの山々をへめぐって、イタリアの中を端から端まで、ゆっくり行きつくして、シシリアからアフリカへ渡ったという。 そしてアルジイルやチュニスやエジプトの話をした。 「しまいにしばらくドイツにいたよ。」と、彼はいった。 「カルルスルウエにね。両親がぜひ逢いたいっていったのさ。それからまた立つ時も、いやがってなかなか立たせてくれなかったっけ。イタリアに来てから、もう三カ月ばかりになる。どうも南国にいると、気が落ち着くんだね。ロオマはひどく気に入ったよ。」 僕はまだ一言も、彼のからだの工合を尋ねなかった。 で、この時こういった。 「そうしてみると、君の健康はずっと快復したと思っていいわけだね。」 一瞬間、僕の顔をいぶかるように眺めた後、彼はこう答えた。 「というのは、僕がこうやって、元気に歩き廻っているからという意味かい。なに、ほんとをいうとね、歩き廻るのはごく当然な要求なんだよ。だってどうすればいいんだ。酒も煙草も恋も禁じられてしまったんだもの――なにか麻酔剤がなくちゃ、やりきれないじゃないか。そうだろう。」 僕が黙っているので、彼はこうつけ加えた。
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