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あのかたはおからだが悪い、大変悪いと両親は私に申しましてね――でも、お悪くてもなんでも、私あのかたを愛しておりますのよ。こんな風にあなたにお話ししてもかまいませんのね。私――」 令嬢はちょっとまごついたが、また前と同じく、きっぱりした調子でつづけた。 「あのかたが今どこにいらっしゃるか、私存じません。でも、あのかたにお逢いになり次第、あのかたが前に私自身の口からお聞きになった言葉を、また繰り返して聞かせてお上げになってもかまいませんの。あのかたのおところがおわかりになり次第、私がもうあのかたよりほかのかたのところには決して参らないと、そう書いてお上げになってもかまいませんのよ。ああ――今にわかりますわ。」 この最後の叫びの中には、反抗と決断とのほかに、きわめて心細げな苦痛がこもっていた。 僕は思わず令嬢の手を取って、無言のまま握りしめずにはいられなかったくらいである。 僕はそのおり、ホフマンの両親に手紙を出して、息子の居所を知らせてくれと頼んだ。 すると、南チロオルのある宿所を教えてくれたが、そこへ出した僕の手紙は、受信人が行先を知らせずに、その地をまた去ってしまったという、ことわりがきがついて、僕のところへもどって来た。 彼はどの側からも煩わされたくなかったのである。 どこかでたったひとりで死のうとして、いっさいから逃れ去ったのである。
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