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おや、あなた御存じないのですか――ホフマンは出立してしまったのですよ。あなたには知らせたろうと思っていましたが。」 「なに、一言半句知らせはしません。」 「じゃまったく ※ b※ton rompu(気まぐれ)なんですね……いわゆる芸術家気分というやつですか……それでは明日の午後に――」 そういったなり、男爵は馬を進めて、あっけに取られた僕を取り残して、行ってしまった。 僕はパオロの住居へと急いだ。 ――はあ、お気の毒ですが、ホフマンさんはお立ちになりました。 所書は残していらっしゃいませんでした。 というわけである。 男爵が「芸術家気分」なんということ以上に、深く知っているのは明らかであった。 彼の娘自身が、僕のはじめからきっとそうだろうと察していたことを、たしかめてくれた。 それはみんなの企てた、そして僕も誘われた、イイザルの谷への散策の時に、起ったことだった。 みんなは午後になってから、ようやく出発した。 そしてもう晩方になったその帰り道で、男爵令嬢と僕とは、偶然にも最後の一組として、一行のあとについて行った。 令嬢の様子には、パオロが姿を消してからも、なにひとつ変ったところは見えなかった。 完全にいつもの平静を保っていて、両親のほうはパオロの急な旅立ちについて、しきりに遺憾の意を述べたのに、彼女はその時まで、まだ一言も僕の友だちのことを、言い出したことがなかったのである。
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