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黄ばんだ細面にある黒い眼は、きわめて病的な輝きを帯びていたので、彼が男爵の問に対して、世にもたのもしげな調子で、次のように答えた時には、僕は聞いていて、なんだか気味が悪くなったほどだった。 「いや、実に申しぶんなしです。どうも恐れ入ります。非常に工合がいいのです。」 ――十五分ばかりして、僕等が席を立った時、男爵夫人は、二日するとまた木曜日だから、例の五時のお茶を忘れないようにと、僕の友だちに注意した。 夫人はそのついでに、僕もまた、その日をどうか覚えていてくれと乞うた。 往来に出ると、パオロは巻煙草に火をつけた。 「どうだい、」と彼は問うた。 「感想は?」 「いや、非常に感じのいい人たちだね。」と、僕は急いで答えた。 「あの十九の娘さんには敬服させられたくらいだ。」 「敬服させられた?」と、彼は短かい笑い声をあげて、首をそむけた。 「そうか、君は笑うんだね。」と僕はいった。 「そのくせさっきあそこじゃ、時々なんだか君の眼が――秘密なあこがれで曇ったような気がしたよ。でも、僕の勘違いだったんだね。」 彼はちょっと黙った。 が、やがておもむろに首を振った。 「僕にはわからないね。どういうわけで君が――」 「おい、ごまかすなよ。――問題はもう僕にとっちゃ、ただ、アダ嬢のほうからも……」 彼はまたちょっと口をつぐんだなり、じっと足もとを見つめていた。 それから小声で、自信ありげにいった。
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