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男爵というのはもと相場師でね、昔はウィインでおそろしい勢力があって、全皇族と交際したりなんかしていたんだよ。……それから急に衰えちまってね、百万ばかり残して――といううわさだがね――事業から手を引いて、今じゃこの町で、地味だけれど貴族的に暮しているんだ。」 「ユダヤ人かね。」 「男爵はそうじゃあるまい。細君のほうはもしかするとね。でも、僕はみんな実に気持のいい上品な人たちだというよりほかはないな。」 「あの――子供はあるのかい。」 「ない。――いや実は――十九になる娘が一人ある。ふたおやはごく愛想のいい人たちでね……」 彼はちょっとの間てれたが、やがてこうつけ加えた。 「僕は本気で君に勧めるがね、僕があの家に紹介してやろうじゃないか。そうさせてくれりゃ僕は嬉しいがな。不服かい。」 「不服なものか。感謝するよ。その十九の娘さんと知り合いになるためだけでもね――」 彼は横眼で僕を眺めたが、やがていった。 「じゃ、そうしよう。そうなると早いほうがいいな。君の都合がよければ、あした一時か一時半頃、さそいに行くぜ。シュタインのところは、テレエジェン街二十五番地の二階だ。学校友だちを引き合わせてやるのは、楽しみだな。じゃ、そうきめたよ。」 僕等は実際、その翌日の正午頃、テレエジェン街のある立派な家の二階で、ベルを鳴らしたのである。
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