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中背で、やせぎすで、ゆたかな黒い髪に帽子をあみだにのせて、青筋の浮いている黄ばんだ顔色で、贅沢だけれども自堕落な身なりで――例えばチョッキのボタンが二つ三つ外れている短かい口髭を軽くひねり上げて……といった様子をしながら、持前のうねるような面倒臭そうな足どりで、彼は僕のほうへやって来た。 二人はほぼ同時に気がついた。 そしてほんとうに心からの挨拶を交した。 カフェエ・ミネルヴァの前で、互いに最近何年間かの動静を尋ね合っていた間、彼は昂然とした、ほとんど熱狂的な気分でいるらしく思われた。 眼はきらきらと輝き、身振りは雄大荘重であった。 そのくせ顔色はすぐれず、実際どこか悪そうな様子をしていた。 今になれば僕はもちろんなんとでもいえるわけだが、でもほんとに、それは僕の目をひいたのである。 それどころか、僕は構わずそういってやった。 「そうか。相変らずか。」と彼は問うた。 「うん、そうだろうとも。ずいぶん病気をしたからなあ。つい昨年も、長い間それこそ大病をやってね。ここが悪いんだ。」 彼は左手で胸を指さした。 「心臓さ。昔からいつもこれだったんだ。――でも近頃はよほどいい。非常に工合がいいんだ。まったく健康だといっても差支えないくらいなんだよ。それに僕もまだ二十三だからね――あんまりかわいそうだろうじゃないか……」 彼は実際上機嫌だった。 快活にいきいきと、一別以来の生活を語った。
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