ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」の公式ブログです。

2021-03-31

みずうみ(31/31)

(597字。目安の読了時間:2分)

 しかし娘は反対な桃花村をながめ、そこへ心はふしぎに憧れた。 けれども何故かそう嘘をつかなければならなかった。 「お前はわたしのそばに居なくともよいのだ。お前の好きなところへ、そして勇ましく出て行ってくれ。」  眠元朗は娘を渚へつれて行ってそう言うと、不意に舟を渚から水の上へ辷り出させた。 湖水の上には青い竜のような影をひいた日の光が、ななめに桃花村へ向いて、金色の巨鱗を打ちひろげていた。 「いえ、お父さまそんなことをなさいますと、あとでお母さまがお怨みなさいますわ。」 「誰も怨まないのだ――さあ、お乗り! そしてお前の手のつづくかぎり漕いで行くんです。」  娘はしかたなく船に乗りうつったときに、舟は父の手によって水の上へ辷り出された。 青い竜のかげは乱れた。 舟は白い小さい手によって漕がれた。 ――娘はそのときこれまでにないはっきりした顔をして、そして鋭い嬉しそうな声をあげた。 「もう行ってもようございますの。」 「いいとも……お前は何という嬉しい顔をしているだろう。」  父親の声はさすがに寂しくかすれていた。 「え、わたし嬉しくて――ではお父さまお大切になさいまし。」  眠元朗はしゃがんで、走る娘の舟を見つめた。 舟は桃花村のある方へ白い水脈をひいて、目ぐるわしく迸(はし)った。 眠元朗の目は湿うてその弄ぶ砂は手のひらを力なげにこぼれた。

========================= ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう!  https://bit.ly/2YSpmEW

■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001579/files/53181_51507.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail ■月末まで一時的に配信を停止: https://forms.gle/d2gZZBtbeAEdXySW9


配信元: ブンゴウメール編集部 NOT SO BAD, LLC. Web: https://bungomail.com 配信停止:[unsubscribe]

公式サイト

ブンゴウメール

ブンゴウメール

1日3分のメールでムリせず毎月1冊本が読める、忙しいあなたのための読書サポートサービス

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチは、青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービスです。