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2021-03-29

みずうみ(29/31)

(661字。目安の読了時間:2分)

 眠元朗はあわてて娘の手をとって、その手を合そうとするのをほつれさせ、そうして悲しげに何度も吃(ども)った。 「あやまるのはお前でなくて、わたしだ。わたしはお前を何度も何度もだました。そしておれ自身が寂しいためにお前をこんなに寂しいとこへ連れてきて、遠い世の何ものも見せまいとした。お前には人生そのものすら存在しないまでに、そんなにまで叮嚀(ていねい)にわたしはお前をこんな風と水と砂丘の世界へ封じようとした。――これがあやまりでなくて何であったろう、ひとりよがりの佗びしいヒネくれたわたしの小さな考えであったのだ。そういう間にもお前には済まないと思いながらわたしはわたしの快楽を何かの隙間からも偸(ぬす)みたのしんで、飽きることをしらなかった。何一つ人間として楽しみを逃さなかった。」  眠元朗のさびしい顔にはたぎって走るあらしのむれが、耳鳴りのするほど凄じくながれた。 かれは娘を抱いて、そしてかれらは自然に両方のもたれ気味な姿勢が、最後にぺたりと砂原へ崩れるまで続けていた。 「お前はしょっちゅうお父さまにいろいろな話をききたがったが、しかしお父さんはお前になるべく遠い世の話をしようとしなかったばかりか、つとめてお前にその話を避けさせていたくらいだ。お前がどんなに人生に出たくとも、そのためどんなに寂しくともわたしはそれを考えようとはしなくて、そしてお前の心までいつまでも黙らせてしまったのだ。」  眠元朗は切ない苦しげな目で、娘に或る許しを乞う色をした。 「わたしはわたしばかりの事を考えていたのだ。

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