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「いや、おれはそんなことで諦らめたりなんかするものか、きっとさがし出して見せるよ。」 そういう眠元朗のこえは何時の間にか、かすかな震えを帯びるほど或る恐怖に似た不安と憂慮を交えていた。 その上いつの間に娘がこうまで執念深く自分の心を傷めるようになっただろうかと思った。 ――しかし心の奥では最初たわむれて言ったことが、次第に娘の本気をさそい出したことを何よりも悔まれた。 「いいえ、わたしきっと今に隠れてしまいますわ。見ていらっしゃい、きっと、きっとお父さまのそばから居なくなってしまいますから。」 眠元朗はそのときふと娘の眼をみた。 娘の目のふちは赧らんで、白みのまんなかにある黒瞳は動かずにすわったきり、何を見ることもなく底輝きをもっていた。 危ないと眠元朗は思った。 かれはそういう美しい思いつめた眼を何と久し振りで見たことであろう? しかも分身のなかにこんなにまで美しい眼があったこと、その眼がいつの間にか自分に馴れなくて叛(そむ)こうとしているのを――かれは恐ろしげにながめた。 「お前それを本気になって言っているのかね。」 「ええ、本気ですわ、本気でなくて何でしょう。わたし全くお父さまからはなれてしまいますの。」 眠元朗は昂奮している娘の肩へ手を伸べ、手のひらでしっかり肩をおさえた。 そして悲哀で渋びた声をした。 「もっと落着いてくれ、そんなにお前のように昂(たか)ぶってはこまるではないか。ねえ、お父さんの眼をそっと見てごらん。そしてお父さんの何んであるかということ、又お父さんがお前がいなくなったあとを考えてみてくれ。
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