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かれらが卓子に向い合っても、徒らに静かな夜はゆっくりと目に立たぬ程度で廻転っているらしかった。 「わたしだちは此処に何時まで居なければならないんでしょうか、わたしは心まで遠くにあるような気がしますの。」 女はそういうと身体を灯のかげから起した。 「お前も退窟しているな、だが、どうにもならないのだ。こうして何時までも居なければならないのだろう。それが此処での宿命なんだろう――。此処へきては宿命そのものすら身動きのならないほど退窟なものだ。」 眠元朗のその言葉はむしろ冷やかすぎるくらいの、誰に向ってするということもない嘲りを含んでいた。 「ではわたしだちは何の為めに此処にいるんでございましょう。わたしにはそれすら分らないんです。」 「やはり生きてゆくためだろう――それより外の何ものでもない。」 娘はらんぷの顔からそのつやつやした顔を父親の方へ向けた。 「一たい生きてゆくことがこんなにまで退窟で、そして興味くないものでしょうか。」 眠元朗は、娘と母親の顔とを見くらべ、一つはしなびてしまい、一つは開こうとしている、と、そう頭にうかべた。 「生きてゆくことは疑いなく退窟だ、だが、お前はそんなに退窟はしないだろう。わたしどものようなことはないだろう。」 眠元朗は、女をながめたが、女もその言葉には肯ずくような面持ちで、しずかに娘の方を向いた。 ――娘は黙っていた。 そしてやっと口をひらくと言った。
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