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「それは何も彼もすっかりこの世間のことが新しくなって、わたしだちは何時の間にか三人きりになってしまったときにも、やはりわたしだちは種々なことを考えなければならなかったことに気が付いたんですもの――お父さまだってむかしと渝(かわ)らない、渝ったものはこんな湖べりに来ただけですもの。」 娘は幾度も頭をかたげていたが、夢を半分切りぬいたように何も彼もわからないらしかった。 ――そのとき眠元朗は窓の外に立って、そこに出した娘の手を把った。 娘は父親に甘えたこえを出した。 「お父さま、晩になったから又話してくださいね。」 眠元朗は考えながら、「お父さんの話することをすっかりお前が聞いてしまったら、お前は最う此処にいることが厭になってしまうだろう――。」 そう言って母親の顔をみた。 母親も父の眼を見入った。 「どうしてでしょう?」 「お前の好きなことが此処にはなくて、お父さまの話の中にあるのだから?」 娘は父親の両手をとって、そして拝むような眼をして言った。 「その話をして頂戴。わたしその話が聞きたくてならないんでございます。――母さまからもおねがいしてくださいな、ほらこんなに聞きたいんですもの。」 母親は執られた手が娘のからだの何処にあるかを知ったときに、彼女自身も一度にどきどきした心臓を感じた。 ――まだ母親が若かったころにそっと或る夕方に握ってみた小鳥の、その微妙などきどきしたものを娘の柔らかい乳房のかげにあるものから感じた。 「お父さま、娘を見てやってくださいまし。」 父親もその手を娘の胸の上に置いた。
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