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2021-03-09

みずうみ(9/31)

(666字。目安の読了時間:2分)

…かげとそれにつづいた月明の夜と、そうして交る交るに囁(ささや)いていた三つの心と、それより外のものは何一つ見当らない――かれらがどうして此処ところに住んでいるかということ、それが何時から始められているかということは、ほとんど朧(おぼろ)げな記憶を過っても、なお夢見ごこちだとしか考えられないのである。 ――かれらは或る時ふいに別々な三人が寄り集っているのではないかと考えるときにも、なお眠元朗は女につづいた深い永い過去をもっていることを感じた。 ――が、どうして此処にかれらの生活が置かれているかということの、その最初が分らなかった。 ――しかし彼らの生活がこの湖べりに来てから、何も彼もあたらしくされたことは実際であった。  眠元朗はおのれの妻である女と、そして娘とだけを眺めてくらした。 その他の何ものをもかれらの眼を刺戟するものがなかった。 白い無数の小鳥と、波間の魚介と、砂丘に這う紫色の藤蔓とだけだった。 ――かれらは此処でどれだけの月日を送ったか、その間は非常に永いようにも又短いようにも思われるほど、何事も平板にあぶら流しに過ぎ去って行った。 眠元朗は女と、小さな家の、浜松のかげにある素朴な腰掛けに坐りながら、同じ窓さきにいる娘をみいみい、ほとんど居眠りと退屈とを相半ばする腐れた時間を送っていた。 それと同じいように女もなかば眠って、ものうげに折々眠元朗を見戍るだけだった。 一さいのものはその心をも静まらせ、ただ曇色ある空を仰ぎ見るような安らかなぼんやりした時のもとに過ぎて行くのみだった。

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