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そろえた膝と小さな足――こまかいことを考えることに秀でた頭には、煙った髪がさらさらと肩まで垂れている。 ――眠元朗は棹を休めて娘と対い合って坐った。 そして娘の顔をしずかに眺めた。 「お前はお父さまが好きか、又お母さまが好きか、もう一度それを言って見てくれないか。」 娘はそういう父の顔の、ずっと奥の方にある真摯さに刺戟されたが、やはり子供らしく可笑しかった。 同じことを繰り返されるということより、その真面目さが可笑しかった。 「どちらも好き――。」 「それはいけない、どっちかに余計好きなところがあるに違いがないから――二羽の異った小鳥にもそれぞれべつに好き好きがあるものだから。」 娘はやはり水の上を指でいじくり、そら眼でほほ笑んで父の眼を見上げている。 そして当惑した考えを無理にまとめようとしているらしい無邪気さが、清々した気もちを父親の胸に湧き立たせた。 「こまるわ、そんな事――。」 娘はすぐ言葉を継いで、何か自分の頭に今きゅうに起った新しい考えに思い付いて不図尋ねた。 「そんなことをお聞きになって何になさるの。どちらが好きでもかまわないじゃありませんか。わたしよそへ行きはしないし、誰一人として此処には人間らしいものが居ないんですもの。」 「誰一人いないところだから、お父さんはそうお前にききたいんだよ。お父さんはそれを聞くのが楽しみなんだよ。」 「ではお母さんより好きだといえば、いいお気もちになりますの。」 娘はそういうと黙っている眠元朗をかえり見た。
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