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これは何となく人間の老境にかんじられるものを童話でも小説でも散文でもない姿であらわそうとしたものである。 ―― 一 舟のへさきに白い小鳥が一羽、静かに翼を憩めて止っている。 ――その影は冴えた百合花のように水の上にあるが、小波もない湖の底まで明るい透きとおった影の尾を曳いている。 ときどき扇のような片羽を開いて嘴(くちばし)で羽虫でも※(あさ)るのであろう、ふいに水の上の白い影が冴えて揺れた。 「お母様はどうなすったのでございましょう? あんなにお急ぎになったのに――わたしちょいと見てまいりましょうか。」 纜(ともづな)を解きかけていた眠元朗は、渚にいる娘の方を顧った。 「すぐ来るだろうから、とにかく先きにお乗り。」 「纜をおときになっては厭でございます。舟が出てしまいますもの。」 「大丈夫だよ。湖から吹く風だからあと戻りしても沖へは吹かれはしない。」 娘はすらりと舟の上に乗ったとき、尾の脚の迅い小鳥のかげがへさきから消えた。 娘はきょうこそ彼の小鳥をつかまえようと、あんなに静かに舟腹にかくれるようにして乗ったのに、とうとう影を見失ってしまったと、くやしそうに舟の中に坐った。 「あの鳥が出ると、島の方がはっきり見えますのね。」 「あの鳥が一羽でも飛んでいたら、晴れるにきまっているんだよ。――それに晴れると白魚がたくさん群れて岸へあつまってくるのも不思議だ。」
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