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『ぼくたち、兵隊ごっこちているだけよ!』 そこへ熊使いがやってきました」 [#改ページ] 第三十二夜 寒い風がぴゅうぴゅう吹いていました。 雲が飛び去って行きました。 月はただときおり見えるだけでした。 「静かな大空をとおして、わたしは飛び行く雲を見おろしています」と、月は言いました。 「大きな影が地上を走って行くのが見えます。 このあいだ、わたしは牢獄の建物を見おろしました。窓をしめた一台の馬車が、その前でとまりました。ひとりの囚人が連れだされることになっていたのです。わたしの光は格子のはまっている窓から壁のところまで押し入って行きました。囚人はこの世の別れに、何か二、三行壁にきざみつけました。しかしこの男の書いたのは言葉ではありません。一つのメロディーでした。この場所ですごした最後の夜に、心の底からほとばしり出た一つのメロディーだったのです。戸が開きました。囚人は外へ連れだされました。そのとき、わたしのまるい月の輪をふりあおぎました。―― 雲がわたしたちのあいだを走りました。まるで、わたしがこの男の顔を見てはならないように、そしてまた、この男がわたしの顔を見てはならないとでもいうかのようでした。男は馬車に乗りました。馬車の戸がしめられました。むちがヒューッと鳴りました。馬はこんもりとした森の中へ駆けこんで行きました。そこでは、わたしの光は後を追って行くことができません。けれども、わたしは牢獄の格子の中をのぞいてみました。わたしの光は、あの男の最後の別れである、壁にきざまれたメロディーの上をすべって行きました。言葉の力の及ばないところでは、音の調べがものを言うものです。―― しかし、ただきれぎれの音譜しか、わたしの光は照らすことができませんでした。
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