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ゆるやかにのぼって行く雲の上に、月はまるく明るく輝いていました。 月がわたしに話してくれたことをお聞きください。 「アフリカのフェザン地方のある町から、わたしは隊商の後について行きました。砂漠の手前にある岩塩平原の一つで、隊商は立ちどまりました。そこは氷の表面のようにきらきら光っていて、わずかのところだけ軽い流砂でおおわれていました。いちばん年上の男は腰帯に水筒を下げ、頭のそばにはパン種のはいらないパンをいれた袋をもっていましたが、この男が杖(つえ)で砂の上に正方形をえがいて、その中にコーランの中の言葉を二つ三つ書きました。隊商はみんな、この聖められたところを通って進んで行きました。 太陽の子であるひとりの若い商人が、物思いにふけりながら、荒い鼻息をたてている白い馬に乗っていました。この男が太陽の子であることは、その眼と美しい姿とで、わたしにはすぐわかりました。この男は美しい若い妻のことでも考えていたのでしょうか? 毛皮と高価な肩掛けで飾られたラクダが、この男の妻を、美しい花嫁を乗せて、町の城壁のまわりを歩いたのは、たった二日前のことだったのです。太鼓や袋笛が鳴りわたりました。女たちは歌いました。そしてラクダのまわりには、喜びの砲声が鳴りひびきました。花婿はいちばんたくさん、いちばん強く鉄砲を打ちました。そしていまは――いまその男は、隊商といっしょに砂漠を通って行くのです。 わたしは幾晩も隊商の後について行きました。そして、発育の悪いシュロの木にかこまれた泉のほとりで、この人たちが休むのを見ました。人々は倒れたラクダの胸にナイフを突きさして、その肉を火であぶりました。わたしの光は燃えている砂を冷やしました。またわたしの光は、大きな砂海の中の死んだ島ともいうべき黒い岩の塊りを人々に見せてやりました。この人たちは、人の通ったことのない道でも敵の種族に出会いませんでした。
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