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そして下のほうに、わたしの輝く光をいっぱいに受けて、この小さい少女が出てきました。頭の上には水のはいった古代風の粘土のかめをのせていました。見ればはだしで、短いスカートも、小さいシュミーズの袖もきれていました。わたしはその子の美しいまるい肩と、黒い眼と、まっ黒なつやつやした髪の毛にキスをしてやりました。少女は家の前の階段をのぼってきました。階段は急で、石壁のかけらやこわれた円柱頭などでできていました。 五色のトカゲがびっくりして少女の足もとをかけて行きましたが、少女はすこしも驚きませんでした。そして早くも手をのばして、戸の呼びりんを鳴らそうとしました。ウサギの前足が一つ、紐(ひも)にゆわえつけられてさがっていました。これがいまの皇帝宮の、呼びりんの引手なのです。 少女はちょっと手をとめました。何を考えたのでしょうか。きっと、あの下の礼拝堂にある、金と銀との着物をきた、美しい子供姿のイエスのことでも考えていたのでしょう。いま礼拝堂では、銀のランプが輝き、小さいお友だちがこの子もよく知っている歌をうたいはじめていました。でも、ほんとうに何を考えていたのか、わたしにはわかりません。 少女はまた動きました。そして、何かにつまずきました。粘土のかめが頭から落ちて、溝の掘れている大理石の敷石の上で二つにくだけてしまいました。少女はわっと泣きだしました。皇帝宮の美しい娘は、みすぼらしいこわれた粘土のかめのために泣きました。はだしのままそこに立って、泣いていました。もう皇帝宮の呼びりんの引手の紐を引くだけの元気もありませんでした」 [#改ページ] 第二十一夜 二週間以上も月は出ませんでしたが、いままたわたしは月を見ました。 ゆるやかにのぼって行く雲の上に、月はまるく明るく輝いていました。
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