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2021-01-19

絵のない絵本(19/59)

(768字。目安の読了時間:2分)

もの静かな老嬢は、生きているときは、年がら年じゅう家の中の同じ場所だけをゆっくりと動きまわっていましたのに、死んだいまとなって、このひろびろとした国道を真一文字に走って行くのでした。  わらのむしろで包んであった棺が跳ね上がって、道の上に落っこちました。ところが、馬と御者と車とは、そんなことにはかまわずに、荒れ狂ったように駆け去ってしまいました。ヒバリが歌いながら野から舞いあがって、棺の上のほうで朝の歌をさえずりました。それから、棺の上にとまって、くちばしでむしろをつつきました。そのようすは、まるでさなぎを裂きやぶろうとでもしているようでした。それからヒバリは、ふたたび歌いながら、大空に舞い上がりました。そしてわたしは赤い朝雲のうしろに引きさがったのです」 [#改ページ] 第十一夜 「婚礼の祝宴がありました」と、月が話しました。 「歌がうたわれ、健康を祝ってさかずきがあげられました。すべてが豊かで、はなやかでした。お客たちも帰っていきました。もう真夜中をすぎていました。母親たちは花婿と花嫁にキスをしました。わたしは、花婿花嫁がふたりだけになったのを見ました。けれども、カーテンがほとんどすっかり引かれていて、ランプがこの楽しい部屋を照らしていました。 『みんな帰ってくれてありがたい!』と、花婿は言って、花嫁の両手と唇にキスをしました。花嫁はほほえみ、そして泣きました。蓮(はす)の花が流れる水の上に休らうように、ふるえながら花婿の胸に頭をもたせて、そしてふたりはやさしい幸福な言葉をささやきあいました。『ぐっすりおやすみ』と、花婿は言いました。花嫁はカーテンをわきへ引きよせました。 『まあ、なんてきれいなお月さまなんでしょう!』と、花嫁が言いました。『ごらんなさいな、あんなに静かで、あんなに明るいわ!』それからランプを消しました。

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