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この地方に住んでいる人たちが踊りと娯楽のために集まっていましたが、この美しさを見ても、ふだん見なれているために、だれひとり驚く者はありませんでした。この人たちは、『死人の魂は、海象の頭といっしょに踊らせておけばいい』という、この人たちなりの信仰に従って考えていたのです。心も、眼も、歌と踊りにばかり向けられていました。輪になったまん中に、手太鼓を持ったひとりのグリーンランド人が毛皮も着ないで立っていて、海豹捕りの歌の音頭をとっていました。すると合唱隊は『エイア、エイア、ア!』とそれに応じました。そうして、白い毛皮を着て、まるい輪をつくって跳ねまわりました。そのありさまは、まるで北極熊の舞踏会のようでした。眼と頭が、思いきりはげしく動いていました。 そのうちに、裁判と判決が始まりました。仲違いをしている人たちが前に歩みでて、まず恥ずかしめを受けた者が相手の悪いことを即興の歌にして、大胆にあざけって言いたてました。こうしたことはみんな、太鼓に合せて踊っている最中に行われるのです。訴えられたほうの者も、同じようにずる賢くそれに答えます。すると、集まっている人たちが笑いさざめきながら、ふたりのあいだに判決をくだすのでした。岩山はとどろき、氷塊がくずれ落ちました。落下する大きな塊りが、途中でこなごなにくだけ散りました。それはグリーンランドらしい、美しい夏の夜でした。 そこから百歩ばかり離れたところに、入口のひらいた、皮のテントがあって、その中にひとりの病人がねていました。その暖かい血の中にはまだ生命が流れていました。でも、もうこの男は死ななければなりませんでした。自分でもそう思っていましたし、まわりの者もみんなそう思っていたのです。ですから、その男の妻は、後になって死人のからだにさわらないでもいいように、夫のからだのまわりに皮の衣をしっかりと縫いつけて、たずねました。
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