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2021-01-14

絵のない絵本(14/59)

(768字。目安の読了時間:2分)

美しい青白い顔を森のほうへ向けて、そこからひびいてくる物音に耳をかたむけました。海のかなたの大空を見上げたとき、女の子の眼はきらきらと輝きました。両手が合されました。『主の祈り』をとなえたように思われます。この子は自分でも、自分自身の中を流れている感情がわかりませんでした。しかし、わたしは知っています。長い年月がたつうちには、この瞬間とまわりの自然とが、画家がきまった絵具でえがきだしたよりもずっと美しく、さらにいっそう忠実に、この子の思い出のうちにときおり生きかえってくるだろうということを。わたしの光は、暁の光が女の子のひたいにキスをするまで、この子の後について行きました!」 [#改ページ] 第八夜  重い雲が空一面にたれこめて、月はまったく姿を現わしませんでした。 わたしは二重のさびしい思いにかられながら、わたしの小部屋の中に立って、いつも月が輝き出てくるあたりの空をながめていました。 わたしの思いは広くかけめぐりました。 そして、毎晩あんなに美しい話を聞かせてくれたり、すばらしい絵を見せてくれたりした、偉大な友だちのことに思い及びました。  そうです、いままでにこの月の体験しなかったことがあるでしょうか! ノアの大洪水のときにも、その水の上を帆走ったのです。 そして、ちょうどいまわたしにほほえみかけているのと同じように、箱船の上にほほえみかけて、やがて花咲き出ようとする新しい世界の慰めをもたらしたのです。 イスラエルの人民が泣きぬれてバビロンの河辺に立ったとき、あの月は竪琴のかかっているヤナギの木のあいだから、悲しげにそれをのぞいたこともあるのです。 ロメオが露台の上によじのぼって、まことの愛の接吻が天使の思いのように天へとのぼって行ったとき、まるい月は黒い糸杉のあいだに半ばかくれて、澄みきった空に浮んでいたこともあるのです。

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