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あの故郷の、沼地のそばに生えている、ヤナギの木のあいだから、わたしを見おろしたときと、すこしもかわらない月だったのです。 わたしは、自分の手にキスをして、月にむかって投げてやりました。 すると、月はまっすぐわたしの部屋の中にさしこんできて、これから外に出かけるときには、まい晩、ちょっとわたしのところをのぞきこもうと、約束してくれました。 そのときからというもの、月は、ちゃんとこの約束を守ってくれています。 ただ残念なのは、月がわたしのところに、ほんのわずかの間しかいられない、ということです。 でも、くるたびごとに、その前の晩か、その晩に見たことを、あれこれと話してくれるのでした。 「さあ、わたしの話すことを、絵におかきなさい」と、月は、はじめてたずねてきた晩に、言いました。 「そうすれば、きっと、とてもきれいな絵本ができますよ」 そこでわたしは、いく晩もいく晩も、言われたとおりにやってみました。 わたしは、わたしなりに、新しい「千一夜物語」を絵であらわすことができるかもしれません。 でも、それでは、あまりに数が多すぎます。 わたしがここに書きしるすものは、勝手に選びだしたものではなくて、わたしが聞いたとおりの順序にならべたものなのです。 すぐれた才能にめぐまれた画家なり、詩人なり、音楽家なりが、もしもこれをやってみようという気があれば、もっとりっぱなものにすることができるにちがいありません。 わたしがお見せするものは、ごく大ざっぱに紙の上に書きつけた、ほんの輪郭にすぎません。 そしてそのあいだには、わたし自身の考えもまじっているのです。 というわけは、月はかならず、まい晩きてくれたわけではありませんし、ときには一つ二つの雲が、わたしと月のあいだにはいりこんでくることもあったからです。 [#改ページ] 第一夜 「ゆうべ」これは、月が話したとおりの言葉です。
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