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2020-10-26

出世(11/16)

(617字。目安の読了時間:2分)

小男の順番に当っている時、大男の方へ下駄を差し出した場合も、やっぱりそうであった。 彼らは、下足の仕事を正確に二等分して、各自の配分のほかは、少しでも他人の仕事をすることを拒んだ。 入場者の場合は、それでもあまり大した不都合も起らなかったが、退場者の場合に、大男の受札の者が、五、六人もどやどやと続けて出て、大男が目の回るように立ち回っている時などでも、小男は澄まし返っていて、小さい火鉢にしがみつくようにして、悠然と腰を下していた。 が、大男の方も、小男の手伝いをせぬことを、当然として恨みがましい顔もしなかった。  譲吉は、その頃よく彼らの生活を考えてみた。 同じ下足番であっても、劇場の下足番や寄席の下足番とは違って、華やかなところが少しもなかった。 その上に彼等の社会上の位置を具体化したように、いつも暗い地下室で仕事をしている。 下足番という職業が持っている本来の屈辱の上に、まだ暗い地下室で一日中蠢(うごめ)いている。 勤務時間がどういう風であったかは知らないが、譲吉が夜遅く帰る時でも、やっぱり同じく彼らが残っていたように思う。 来る年も来る年も、来る月も来る月も、毎日毎日、他人の下駄をいじるという、単調な生活を繰り返していったならば、どんな人間でもあの二人の爺のように、意地悪に無口に利己的になるのは当然なことだと思った。 いつまであんな仕事をしているのだろう。 恐らく死ぬまで続くに違いない。

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