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六尺に近い大男で、眉毛の太い一癖あるような面構えであったが、もう六十に手が届いていたろう。 もう一人の方は、頭のてかてか禿げた小男であった。 二人は恐ろしく無口であった。 下足を預ける閲覧者に対しても、ほとんど口を利かなかった。 職務の上でもほとんど口を利かなかった。 劇場や、寄席、公会場の下足番などが客の脱ぎ放した下駄を、取り上げて預かるようになっているのと違って、ここでは閲覧者自身に下駄を取り上げさせた。 またそうしなければならぬような設備になっていた。 もし初めての入館者などが下駄を脱いだままぼんやりと立っている場合などに、この大男の爺は、顎でその脱いだ下駄を指し示した。 二人はいかなる場合にも、たいていは口を利かなかった。 二人の間でも、ほとんど言葉を交わさなかった。 深い海の底にいる魚が、だんだんその視力を無くすように、こうした暗い地下室に、この、人の下駄をいじるという賤役に長い間従っているために、いつの間にか嫌人的になり、口を利くのが嫌になっているようであった。 二人はまた極端に利己的であるように、譲吉には思われた。 二人は、入場者を一人隔きに引き受けているようであった。 従って、大男の順番に当っている時に、入場者が小男の方に下駄を差し出すと、彼はそしらぬ顔をして、大男の方を顎で指し示した。 小男の順番に当っている時、大男の方へ下駄を差し出した場合も、やっぱりそうであった。
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