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父 (まったく悄沈として腰をかけたまま)のたれ死するには家は要らんからのう……(独言のごとく)俺やってこの家に足踏ができる義理ではないんやけど、年が寄って弱ってくると、故郷の方へ自然と足が向いてな。 この街へ帰ってから、今日で三日じゃがな。 夜になると毎晩家の前で立っていたんじゃが、敷居が高うて入れなかったのじゃ……しかしやっぱり入らん方がよかった。 一文なしで帰って来ては誰にやってばかにされる……俺も五十の声がかかると国が恋しくなって、せめて千と二千とまとまった金を持って帰ってお前たちに詫をしようと思ったが、年が寄るとそれだけの働きもできんでな……(ようやく立ち上って)まあええ、自分の身体ぐらい始末のつかんことはないわ。 (蹌踉(そうろう)として立ち上り、顧みて老いたる妻を一目見たる後、戸をあけて去る。後四人しばらく無言) 母 (哀訴するがごとく)賢一郎! おたね 兄さん! (しばらくのあいだ緊張した時が過ぎる) 賢一郎 新! 行ってお父さんを呼び返してこい。 (新二郎、飛ぶがごとく戸外へ出る。三人緊張のうちに待っている。新二郎やや蒼白な顔をして帰って来る) 新二郎 南の道を探したが見えん、北の方を探すから兄さんも来て下さい。 賢一郎 (驚駭して)なに見えん! 見えんことがあるものか。 (兄弟二人狂気のごとく出で去る) ――幕――
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