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あの時おたあさんが誤って水の浅い所へ飛び込んだればこそ、助かっているんや。 俺たちに父親があれば、十の年から給仕をせいでも済んどる。 俺たちは父親がないために、子供の時になんの楽しみもなしに暮してきたんや。 新二郎、お前は小学校の時に墨や紙を買えないで泣いていたのを忘れたのか。 教科書さえ満足に買えないで、写本を持って行って友達にからかわれて泣いたのを忘れたのか。 俺たちに父親があるもんか、あればあんな苦労はしとりゃせん。 (おたか、おたね泣いている。新二郎涙ぐんでいる。老いたる父も怒りから悲しみに移りかけている) 新二郎 しかし、兄さん、おたあさんが、第一ああ折れ合っているんやけに、たいていのことは我慢してくれたらどうです。 賢一郎 (なお冷静に)おたあさんは女子やけにどう思っとるか知らんが、俺に父親があるとしたら、それは俺の敵じゃ。 俺たちが小さい時に、ひもじいことや辛いことがあって、おたあさんに不平をいうと、おたあさんは口癖のように「皆お父さんの故じゃ、恨むのならお父さんを恨め」というていた。 俺にお父さんがあるとしたら、それは俺を子供の時から苦しめ抜いた敵じゃ。 俺は十の時から県庁の給仕をするし、おたあさんはマッチを張るし、いつかもおたあさんのマッチの仕事が一月ばかり無かった時に、親子四人で昼飯を抜いたのを忘れたのか。
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