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男の声 上ってもええかい。 母の声 ええとも。 (二十年振りに帰れる父宗太郎、憔悴したる有様にて老いたる妻に導かれて室に入り来る、新二郎とおたねとは目をしばたたきながら、父の姿をしみじみ見つめていたが) 新二郎 お父さんですか、僕が新二郎です。 父 立派な男になったな、お前に別れた時はまだ碌(ろく)に立てもしなかったが……。 おたね お父さん、私がたねです。 父 女の子ということはきいていたが、ええ器量じゃなあ。 母 まあ、お前さん、何から話してええか。 子供もこんなに大きゅうなってな、何より結構やと思うとんや。 父 親はなくとも子は育つというが、よういうてあるな、ははははは。 (しかし誰もその笑いに合せようとするものはない。 賢一郎は卓に倚(よ)ったまま、下を向いて黙している) 母 お前さん、賢も新もようでけた子でな。 賢はな、二十の年に普通文官いうものが受かるし、新は中学校へ行っとった時に三番と降ったことがないんや。 今では二人で六十円も取ってくれるし、おたねはおたねで、こんな器量よしやけに、ええ所から口がかかるしな。 父 そら何より結構なことや。 わしも、四、五年前までは、人の二、三十人も連れて、ずうと巡業して回っとったんやけどもな。
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