(590字。目安の読了時間:2分)
母 仕立物を持って行っとんや。 新二郎 (和服になって寛ぎながら)兄さん! 今日僕は不思議な噂をきいたんですがね。 杉田校長が古新町で、家のお父さんによく似た人に会ったというんですがね。 母と兄 うーむ。 新二郎 杉田さんが、古新町の旅籠屋が並んどる所を通っとると、前に行く六十ばかりの老人がある。 よく見るとどうも見たようなことがあると思って、近づいて横顔を見ると、家のお父さんに似ていたというんです。 どうも宗太郎さんらしい、宗太郎さんなら右の頬にほくろがあるはずじゃけに、ほくろがあったら声をかけようと思って、近よろうとすると水神さんの横町へ、こそこそとはいってしもうたというんです。 母 杉田さんなら、お父さんの幼な友達で、一緒に槍の稽古をしていた人やけに、見違うこともないやろう。 けどもうお前、二十年にもなるんやけにのう。 新二郎 杉田さんもそういうとったです。 何しろ二十年も会わんのやけに、しっかりしたことはいえんけど、子供の時から交際うた宗太郎さんやけに、まるきり見違えたともいえんいうてな。 賢一郎 (不安な瞳を輝かして)じゃ、杉田さんは言葉をかけなかったのだね。 新二郎 ほくろがあったら名乗る心算でいたのやって。 母 まあ、そりゃ杉田さんの見違いやろうな。 同じ町へ帰ったら自分の生れた家に帰らんことはないけにのう。
========================= ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://bit.ly/33SUq9w
■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000083/files/502_19914.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail ■月末まで一時的に配信を停止: https://forms.gle/d2gZZBtbeAEdXySW9
配信元: ブンゴウメール編集部 NOT SO BAD, LLC. Web: https://bungomail.com 配信停止:[unsubscribe]