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何とかして、あの町の在りかを捜し出そうと苦心した揚句、私は漸く一策を案じ出した。 長い年月の間、毎夜のように相乗りをして引き擦り廻されて居るうちに、雷門で俥がくるくると一つ所を廻る度数や、右に折れ左に曲る回数まで、一定して来て、私はいつともなくその塩梅を覚え込んでしまった。 或る朝、私は雷門の角へ立って眼をつぶりながら二三度ぐるぐると体を廻した後、この位だと思う時分に、俥と同じ位の速度で一方へ駆け出して見た。 唯好い加減に時間を見はからって彼方此方の横町を折れ曲るより外の方法はなかったが、丁度この辺と思う所に、予想の如く、橋もあれば、電車通りもあって、確かにこの道に相違ないと思われた。 道は最初雷門から公園の外郭を廻って千束町に出て、龍泉寺町の細い通りを上野の方へ進んで行ったが、車坂下で更に左へ折れ、お徒町の往来を七八町も行くとやがて又左へ曲り始める。 私は其処でハタとこの間の小路にぶつかった。 成る程正面に印形屋の看板が見える。 それを望みながら、秘密の潜んでいる巌窟の奥を究めでもするように、つかつかと進んで行ったが、つきあたりの通りへ出ると、思いがけなくも、其処は毎晩夜店の出る下谷竹町の往来の続きであった。 いつぞや小紋の縮緬を買った古着屋の店もつい二三間先に見えて居る。
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