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「夢の中の女」「秘密の女」朦朧(もうろう)とした、現実とも幻覚とも区別の附かない Love adventure の面白さに、私はそれから毎晩のように女の許に通い、夜半の二時頃迄遊んでは、また眼かくしをして、雷門まで送り返された。 一と月も二た月も、お互に所を知らず、名を知らずに会見していた。 女の境遇や住宅を捜り出そうと云う気は少しもなかったが、だんだん時日が立つに従い、私は妙な好奇心から、自分を乗せた俥が果して東京の何方の方面に二人を運んで行くのか、自分の今眼を塞がれて通って居る処は、浅草から何の辺に方って居るのか、唯それだけを是非とも知って見たくなった。 三十分も一時間も、時とすると一時間半もがらがらと市街を走ってから、轅を下ろす女の家は、案外雷門の近くにあるのかも知れない。 私は毎夜俥に揺す振られながら、此処か彼処かと心の中に憶測を廻(めぐ)らす事を禁じ得なかった。 或(あ)る晩、私はとうとうたまらなくなって、 「一寸でも好いから、この眼かくしを取ってくれ。」 と俥の上で女にせがんだ。 「いけません、いけません。」 と、女は慌てて、私の両手をしッかり抑えて、その上へ顔を押しあてた。 「何卒そんな我が儘を云わないで下さい。此処の往来はあたしの秘密です。この秘密を知られればあたしはあなたに捨てられるかも知れません。」 「どうして私に捨てられるのだ。」
「そうなれば、あたしはもう『夢の中の女』ではありません。
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