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大分昔よりは年功を経ているらしい相手の力量を測らずに、あのような真似をして、却って弱点を握られはしまいか。 いろいろの不安と疑惧に挟まれながら私は寺へ帰った。 いつものように上着を脱いで、長襦袢一枚になろうとする時、ぱらりと頭巾の裏から四角にたたんだ小さい洋紙の切れが落ちた。 「Mr. S. K.」 と書き続けたインキの痕をすかして見ると、玉甲斐絹のように光っている。 正しく彼女の手であった。 見物中、一二度小用に立ったようであったが、早くもその間に、返事をしたためて、人知れず私の襟元へさし込んだものと見える。 思いがけなき所にて思いがけなき君の姿を見申候。 たとい装いを変え給うとも、三年このかた夢寐にも忘れぬ御面影を、いかで見逃し候べき。 妾(わらわ)は始めより頭巾の女の君なる事を承知仕候。 それにつけても相変わらず物好きなる君にておわせしことの可笑しさよ。 妾に会わんと仰せらるるも多分はこの物好きのおん興じにやと心許なく存じ候えども、あまりの嬉(うれ)しさに兎角の分別も出でず、唯仰せに従い明夜は必ず御待ち申す可く候。 ただし、妾に少々都合もあり、考えも有之候えば、九時より九時半までの間に雷門までお出で下されまじくや。 其処にて当方より差し向けたるお迎いの車夫が、必ず君を見つけ出して拙宅へご案内致す可く候。
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