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その中には、コナンドイルの The Sign of Four や、ドキンシイの Murder, Considered as one of the fine arts や、アラビアンナイトのようなお伽噺(とぎばなし)から、仏蘭西の不思議な Sexuology の本なども交っていた。 此処の住職が秘していた地獄極楽の図を始め、須弥山図だの涅槃像だの、いろいろの、古い仏画を強いて懇望して、丁度学校の教員室に掛っている地図のように、所嫌わず部屋の四壁へぶら下げて見た。 床の間の香炉からは、始終紫色の香の煙が真っ直ぐに静かに立ち昇って、明るい暖かい室内を焚(た)きしめて居た。 私は時々菊屋橋際の舗へ行って白檀や沈香を買って来てはそれを燻(く)べた。 天気の好い日、きらきらとした真昼の光線が一杯に障子へあたる時の室内は、眼の醒めるような壮観を呈した。 絢爛(けんらん)な色彩の古画の諸仏、羅漢、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、象、獅子、麒麟(きりん)などが四壁の紙幅の内から、ゆたかな光の中に泳ぎ出す。 畳の上に投げ出された無数の書物からは、惨殺、麻酔、魔薬、妖女、宗教―――種々雑多の傀儡(かいらい)が、香の煙に溶け込んで、朦朧(もうろう)と立ち罩(こ)める中に、二畳ばかりの緋毛氈を敷き、どんよりとした蛮人のような瞳を据えて、寝ころんだ儘(まま)、私は毎日々々幻覚を胸に描いた。
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