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アンブロアジヌお婆あさんはしばらく糸車をまはしませんでした。 又、ジヤツクお爺さんも柳を編むのをやめました。 ジユウルもクレエルも眼を円くしました。 みんなそれを冗談だと思つたのです。 『いゝえ、坊や、私は冗談なんか云いやしないよ。 私は本当のお話をお伽話なんかに変へやしないよ。 乳搾りも牝牛も、みんな本当にあるのだよ。 けれども、其の問ひを説明する、此の話のつゞきは、明日の晩までお預りにしよう。』 エミルはジユウルを隅つこの方に引つぱつて行つて云ひました。 『叔父さんの本当の話は大変面白いのね。 アンブロアジヌお婆さんのお伽話よりもよつぽど面白いや。 あの不思議な牝牛の話がすつかり聞ければ、僕はもうノアの箱船なんかどうなつてもいゝな。』 四 牝牛 次の日にエミルは、眼をさますかさまさないうちから、蟻の牝牛の事を考へはじめました。 『叔父さんに、あの話の続きを今朝してくれるやうに頼まなくつちや。』 エミルはジユウルに云ひました。 そして大急ぎで叔父さんを見に行きました。 『アハ!』叔父さんは二人の頼みを聞くと大きな声を出しました。 『蟻の牝牛の話がそんなにお前達の気に入つたかい。 では、お前達にその話をして聞かすよりもつといゝ事をしよう。 お前達にそれを見せてあげよう。 まづ、クレエルをお呼び。』 クレエルは大急ぎで来ました。 叔父さんはみんなを庭の接骨木の茂つた下に連れて行きました。 そしてみんなは次のやうな事を見たのです。 其の茂みは花で真白でした。 蜂や、蠅や、甲虫や、蝶が、ねむくなるやうな微かな音をたてゝ彼方此方の花から花へ飛びまはつてゐました。 接骨木の幹では、その木の皮の筋の間を沢山の蟻が、上つたり降つたりして這つてゐました。 そして上る蟻の方がずつと一生懸命でした。 その蟻共は時々道で立ち止つて他の蟻とどう上つて行くかについて相談してゐるやうに見えます。
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