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麦殻は地下の町の入口まで行つた。 が、其の麦殻は今は簡単には穴の中にはいらないやうになつた。 その麦殻はゆがんでゐる。 穴の縁とは反対の方に傾いてゐるのだ。 手伝ひ共は押し上げる。 十ぺんも二十ぺんも一つ骨折りをやる。 が、駄目だ。 で、其の二匹か、或は三匹とも、機械師達のやうに、隊を解散して、此のどうしても勝てない不可抗力の原因をさぐりに出かける。 故障はすぐに解つた。 蟻共は其の麦殻をすつかり持ち上げなければならないのだ。 麦殻はその一端が穴の口から突き出す位までほんの少しの間をひつぱられる。 それから、其の突き出した方の端を一匹の蟻が捉へると同時に他の蟻共は地面についてゐる方の端を持ち上げる。 すると、其の麦殻はでんぐり返つて穴の中に落ちる。 しかし、大工達がそれを側面にくつつけるまでは、用心深く捉んでゐるのだ。 お前達はたぶん土を運んでゐるほかの坑夫達がその不思議な機械的な働きを面白がつてその前に立ち止つたらうと考へるだらうね。 だが蟻はちつともそんな暇は持たないんだよ。 みんな其の坑夫達は、大工仕事とは別に、掘り出した材料の土の荷物と一しよにずん/\通つて行くのだ。 蟻共の熱心さは、梁を動かす下にでもびつこになるのもかまはずに大胆にすべり込んで行く位だ。 『誰れでも、そんなに働いてはたべなければゐられない。 激しい運動程食慾を起さすものはない。 其処で乳しぼりの蟻は列をぬけて行つて、乳を持つた牝牛から乳を搾つて労働者の蟻達にくばるのだ。』 すると、エミルがふき出しました。 『それは、きつと本当ぢやないんでせう?』と叔父さんに云ひました。 『乳搾りの蟻だの、牝牛だの、乳だなんて! やつぱりアンブロアジヌお婆あさんが話すやうなお伽話です。』 ポオル叔父さんの使つた妙な云ひまはしに驚いたのはエミル一人ではありませんでした。 アンブロアジヌお婆あさんはしばらく糸車をまはしませんでした。
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