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『地面の下で坑道を掘りさへすれば、それで蟻の仕事はおしまひかと云ふと、決してさうではない。 弱い処を固めて地辷りを防がなければならないし、柱で円天井を支へたり、仕切りもつくらねばならない。 大勢の坑夫達は其の時には大工達の手伝ひになるのだ。 最初には蟻塚から土を運び出す。 その次ぎには建築材料を持ち込むのだ。 其の材料と云ふのは、建物に似合ひな、梁だとか、小さな枕木とかいふ風な材木の切れだ。 ほんの小ちやな藁屑でも、天井のしつかりした梁になるし、よごれた葉つぱの茎でも強い円柱になるのだ。 大工達は、近所の森とも云ふやうな草叢の中を探険して其等の木切れを選ぶのだ。 『いゝものが見つかつた! 麦粒の殻だ。 それは大変うすくつて汚れてゐる。 が、しつかりしてゐる。 それは下の方で蟻達がつくつてゐる建物の仕切りには上等の板がつくれるだらう。 けれども重いのだ。 途方もなく重いのだ。 蟻がそれを見つけ出す。 そして六本の自分の足で剛情に後の方にひつぱらうとする。 駄目だ。 重い塊は動かない。 けれども蟻はその小さい体にありつたけの力でもう一度ひつぱつて見る。 麦殻はほんの一寸働くだけだ。 で、蟻は自分の力に及ばないとあきらめる。 そして行つてしまふ。 ではその麦の殻を棄てたのだらうか? どうして、どうして! 其の時は一匹でも、其の一匹は必ずその事を仕遂げねばおかぬ辛抱強さを持つてゐるのだ。 だから、その行つてしまつた蟻は其処に二匹の手伝ひを連れて引きかへして来る。 そして其の一匹はすぐに麦の殻の前の方を捉へる。 他の者達は大急ぎでその両側にまはる。 そしてその麦殻を転がす。 前へ進んで行く。 うまくゆきさうだ。 其処は歩きにくい。 けれども蟻達は此の荷物を担いだ蟻に逢ふと、みんな道を譲るのだ。 『けれども、まだ、すつかり仕事をやり遂げるのに困難がなくなつたと云ふ訳にはゆかない。 麦殻は地下の町の入口まで行つた。
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