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『さうぢやありませんよ、エミルさん、鼠の次ぎには鼠を食べる猫が来ます。 それから猫を打つ掃木、それから掃木を焼く火、火を消す水、水を飲んで咽喉の渇くのを止める牝牛、牝牛をさす蠅、蠅をかつさらふ燕、その燕を捕へる罠(わな)、それから――』 『そんなにして何時までも同じ事が続くんぢやないの?』 エミルが聞きました。 『あなたのお好きなだけ、いくらでも長く続きますよ。 どんなに強いものがあつても、何時も、いくらでも、もつと強い外の者が出て来ますからね。』 アンブロアジヌお婆あさんは答へました。 『でもお婆あさん』とエミルが云ひました。 『僕、其のお話は倦きちやつたよ。』 『では別のお話を致しませう。 昔、一人の樵夫がお神さんと一緒に住んでゐました。 二人は大変貧乏でした。 此の樵夫夫婦には七人の子供がありました。 その一等下の子はそれはそれは小さくて、其の寝床は木靴で間に合ふ位でした。』 『僕其の話は知つてるよ。』と又エミルが口出しをしました。 『其の七人の子供達が森の中で、迷子になるのさ。 初めの時には一寸法師が白い小石で道にしるしをおいたけれど、其の時にはパン屑をまいておいたものだから、鳥がみんな其のパン屑をたべてしまつて、道がわからなくなつたのさ。 それで一寸法師が木のてつぺんにのぼると、遠くの方に灯が見えるので、みんなでタツタツと馳け出して行つて見ると、それは人喰鬼の住居だつた、と云ふんだよ!』 『其の話の中には本当の事がないな』とジユウルが云ひました。 『背虫の猫の話にだつて、シンデレラの話にだつて、青鬚の話にだつて、やつぱり本当の事がないんだ。 あれはみんなお伽話で、本当の話ぢやないんだ。 僕はもう聞くならすつかり本当の話が聞きたいな。』 本当の話、と云ふ言葉で、ポオル叔父さんは大きい書物を閉ぢて、頭を上げました。 アンブロアジヌお婆あさんの古いお話よりはずつと面白くて為めになるやうな話を持ち出すのに、みんなの話の向をかへるいゝ折が来たのです。
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